ほりすてぃっくうぃずだむ

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White, Red ... And "Aquamarine".

この記事は以前書いた記事「私は如何にして箱推しを止めてセガサミーフェニックスを愛するようになったか(近藤誠一編)」の続編、魚谷侑未選手編です。「エモい」がテーマなので、それっぽく意識して書いてみることにします*1。よろしくお付き合いください。


今にして思えば、僕が「セガサミーフェニックスを推していこう」と決めた、大きな転換点となった日、彼女は泣いていた。

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魚谷侑未というプロ雀士は、僕にとっては、非常にエモーショナルな選手である。

Mリーグ開始時点で「知っているプロ雀士はほんの数人、Mリーガーに限ってさえ1/3も知らない」自分が、魚谷選手についてMリーグを通して知った*2のは、「新進気鋭の女流プロ雀士。タイトル取っててめちゃんこ強い*3」こと、「麻雀に男女差はない」「批判されようと鳴きのスタイルを崩さない」ことを公言するなど「とにかく戦い続けてきた人である」ことだった。

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そしてそれが認められてさえいる。麻雀という世界が男くさい世界であるなんてことは、素人である僕でさえ知っている。哲也もアカギも本人は若いけど、対戦相手はオッサンかジジイばっかりだ。「実在プロ雀士が登場!」と謳われた麻雀ゲームもいくつか遊んだけれど、その「プロ雀士」も良く知らないオッサンばっかりだった*4。その世界でこうして認められている女流が、すごい人でないことなんてまずないだろう。
そういう人が、僕のような門外漢もが注目し、楽しみにしたMリーグに、ドラフト1位で参戦する。期するものがあることは誰にだってわかる。開幕戦だって出場を志願したそうだ。

…が、とにかく勝てていなかったんである。
2018シーズンの魚谷選手は本当に辛かった。

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「今日に至るまでのネガティブな感情」。結局、この日だってトップは取れなかったし、だから目にすることも叶わなかったけれど、ともあれ、それほどまでにしんどかったのだ。そして、その流れは変わらなかった。
そうしてひと月後。Mリーグ2018終盤戦。いよいよ追い込まれたセガサミーフェニックス、魚谷選手が迎えた試合が、僕が「セガサミーフェニックスを推していこう」と決めたその日が、「最速マーメイドが泣いた日」なのである。

といっても、僕は「人魚の涙」そのものに惹かれたのではなかったりする。
その「涙」のエモさを、MAXに引き上げたのは、それよりも前の、たったひとつの気丈な打牌だったと今でも思っている。惹かれたのは、そこなのだ。


2019年1月22日。

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セガサミーフェニックスは崖っぷちであった。ラスト20戦を切り、最終コーナー曲がって直線へ入るか入らないか、のところでボーダーまで約200pts。
勝てば望みがつながるが、負ければそこは絶望、地獄の一丁目。そんな日の先発が、魚谷選手だった。

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思えばプロって大変である。調子が悪い、勝てない。僕らは、「今勝てないや、やめやめ」とか「二度とやらんわこんなクソゲー」で全然かまわないのだから。そうやって頭を冷やしてまたコントローラを握ったって、それでいい。娯楽を楽しむのに、いつもべったりでいる必要はない。
でも、プロはそうはいかない。負けてようが、調子が戻ってこなかろうが、打つべき時に打つのだ。
例え、「今」、負けていようと。

そして、この試合も、つらいものだった。

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ツモられて、

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ツモられて。

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テンパイしてさえ、

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嫌われて*5

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とどめに満貫の親かぶり。

放銃はたった一度。1000点だけのはずなのに。
絶対に勝ちたい試合。ここから大逆転を演じ、絶対にMリーグを盛り上げてくれる人たち。苦しい中でも戦って、勝ちに向かってあがきもがく人たち。それがこんなに、牌に、流れに恵まれない。
麻雀は無常だ。

この人に、魚谷選手に、どうか和了らせてください…!

「選手の、チームの勝利を願って試合を観る」。それまで「いやーMリーグって面白いねえ!!」なんて誰に肩入れせずとも、お気楽に見ていたものを、この試合、この瞬間、たぶん初めて「サポーターとして」観たんだろうと思える瞬間だった。

そして、オーラス。
絶対にラスが引けない試合、2位が遠く離れたこの半荘で、それでもまだ良かったのは、オーラスの親である、3着目の赤坂ドリブンズ村上選手との差が、たったの2700点だったこと。30符2翻の500-1000、要はツモと後何か一つで、最悪からは回避できる。まだ希望は残ってる。
開かれた配牌は……!

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う、うーん。ブロックは明らかに足りていないけれど、字牌重ねるか、整理していてタンヤオになれば何とか…!
条件は厳しくない、ならば今祈らずいつ祈るんだ!

固唾をのんで画面に見入り…そして6巡。

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發の対子という「あと一つ」までもう少し。打3萬。ドラ白はぎりぎりまで引っ張る。
が、ほんの数巡で。

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来やがった……!
フリテンとはいえ、それを知っているのは神目線の人間のみ。確実に手が止まってしまうし、何せドラ、生牌の白を引っ張っているし、手が進んでもそれを打てるかというもんだいg

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あ…あああ……ああああああああああああ!!!!

村上選手からリーチ棒が出たことで、1000点出上がりOKになったのに!なんでこんな、悩ましい…!

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行けッ!行ってくれ!そのリーチはフリテンだ!そこで止まったら、もうこのゲームはおしまいなんだ!!いけえええ!

魚谷選手から見ればドラ生牌の白なんて怖すぎて打てない牌だろう。誰に当たったって満貫からで、村上選手にロンと言われたら、リーチ一発白ドラ3の18000点から。これはもうほぼゲームセットの宣告でしかない、それも最悪シーズンそのものが、終わってしまう。判断する材料だってない。きっと平時だったら降りるだろう*6
でも、ここで押してくれたら。3着取りに行くんだと、押してくれたら。

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行った……!

僕らはこの白が通ることを知っている。でも、当たって酷いことになってしまうことを考えずにはいないそれを、魚谷選手は押した。ひとつでも上を取らなければいけない、今、この時に。

麻雀というのは運ゲーだ。言うところによれば運7技術3らしい。いつでもこうすれば良いという処方箋はたぶんない。
でも、押さなければいけない時に押せない人は、自分も推せない。きっとその人は「欲しい勝ち」「僕が見たい勝ち」を逃してしまう。いつかそれで勝ちを得る時が来る。そういうのを逃すことにこそ、僕はがっかりしてしまうはずだ。僕が見たいのはそれなんだ。それに、例えそれで負けるとしても、その姿勢をこそ愛したい、と思うのは、もう自分の「癖(へき)」なのだ。

だから、これでいい。これなら推せる。
この白切りこそ、強く、強くそう感じた、決定的な場面だったのだ。

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いぃぃぃぃぃぃしぃぃぃぃぃぃぃばぁぁぁぁぁあしぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!くぁwせdrftgyふじこlp;*7

終わりはスンッと訪れた。
満貫なら変わっていたかも知れない他家の和了りも、1000-2000では、リーチ棒含めても変わらず。こういうシーンで、これもたぶん、初めてこのニュアンスで選手の名前を呼んだかも知れない。
覚悟を決めた白切りも実らず、終局。

麻雀ってホント報われないゲームだ。でも、だからこそ見ていて心が動く。


引いてはいけないラスを引き、風穴を開けてしまったポイントを横目に、連闘。

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しかし彼女は勝利した。チームメイトの言葉を従えて。涙とともに。

魚谷選手自身は、自著の中で、「一番苦しかったトップ」と回想している。
しかし、フェニックスがはばたいたのは、この勝利からだったのだ。

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セガサミーフェニックス、不死鳥化。ボーダーラインの4位に到達。

こんな劇的なことが起きるんだろうか。麻雀で。本当にわからないゲームである。心の底から嘆息してしまった。
まるで物語を見ているような気持ちを、麻雀で味わうことがあるとは思わなかった。心が潰れそうになるラスから、トップを引き、それがチームに伝播して、上昇していく。

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しかし、麻雀はまた、無情なゲームでもあるのだ。
復調することのないまま、直後の出番で2連敗。そしてそのまま、終戦となったのである。
この2連敗からあとも、試合があったにも関わらず、出ることさえ叶わなかった。

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悔しいに違いないのである。すれ違いさえおこし、それが刺さるほどに。
ただ、リーグ終盤に見せてくれた、魚谷侑未というプロ雀士のこの闘牌、呼応して乱戦を築き上げたチームの闘いこそが、自分の中に「多大な好感度」として印象を残したのだ。

そして。
ドラフトを経て、僕はセガサミーフェニックスのサポーターとなったのである

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そして、2019シーズン。
開幕から彼女は泣いていた。

悔しさからではない。苦しさからでもない。2018年終盤の、あるいは2018年初戦で箱下ラスを引いたことへのリベンジが成った、嬉しさからの涙。想いがひとつ報われた瞬間。

しかし、これは物語の序曲に過ぎなかったのだ。


2019年、レギュラーシーズン最終盤。
今年もまた、緊張と苦悩が押し寄せたのである。

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今度は「次ステージへの残留争い」ではない。2019シーズンのセガサミーフェニックスは、本当に無双だった。「2019年内一度もトップを取れずに苦しんだ和久津選手の、年内最終戦の初トップと、次戦年始初戦の連続トップ」が起爆剤になった、といえば、「流れ」なんかないという話にもなるかも知れないが、しかし結果5連勝と、そこからの盤石の、断トツのトップというのは、「無双」以外に言葉もないだろう。
そんな状況での悩み。

MVP争いである。

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「私がこのまま勝って、誠一さんとMVP争いしますね!」という冗談が出たのは1月のチームパプリックビューイングでのこと。それが、現実になっていた。
しかも、「直前でシーズン初、そして結果唯一となったラス」を近藤選手が引き、MVP獲りが託されるような状況で、である。

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連闘の2戦目、ラス目で迎えた南3局。 悩みの種は「生牌の中」である。
そう、奇しくも状況は「去年見た、あの白切り」と似ていた*8。この中は、

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ホンイツ濃厚、親の園田選手に対して警戒度が高い牌である。鳴かれるのならまだいい。しかし、ロンと言われたら、12000を覚悟するような、そんな牌。
ましてや、1戦目は3着でポイントをマイナスしている。ここでさらにラスを引けば、自分に託されたはずの、それもあの「ゼロラス男」近藤誠一から受けたバトンであるはずの、MVPが遠く遠くにかすんで消えてしまう。もう挽回もできない。そんな状況で、この牌である。

でも。去年、あの白を切った魚谷選手に期待したもの。ここで例え敗れたとしても。いつか、いつか見せてくれるであろうもの。それは、あの日の勝利でも、その涙でもなく、

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あの時と同じ、この押し。そして。

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この瞬間だったのだ。焔を中央に抱くような五索を、ツモと叩いたこの瞬間。その掌を開け、鳳凰が昇華したような錯覚さえ抱いてしまった、この瞬間。震える声で、「8000、16000は、8100、16100」と噛み締めるように、大切に宣告した、この瞬間。

この瞬間、これをこそ、僕は期待し、そのために魚谷侑未という雀士を、セガサミーフェニックスというチームを、推していたかったのだ。 あの白を、歯を食いしばって押し通した、あの時から。

この瞬間を、ファンとして観られたということが、純粋に嬉しい。それが「感動」でなくて何なんだろう。

この日も彼女は少し泣いていた。
すっかり「陸では泣いちゃうマーメイド」である。


魚谷侑未というプロ雀士は、僕にとっては、非常にエモーショナルな選手である。

ギリギリのところで最善を尽くし、それでもなお負け、しかし、時に劇的な勝ちを見せてくれる。前年の負けを生かしてフォームを変え*9、シーズン中好調を維持し、役満を短い期間に2発も叩きつけて、それでMVP獲ってくるなんてストーリー、早々ない。きっとフィクションなら担当がボツにする。
でもそれを、やって見せたのだ。

2020年3月16日。セミファイナルが始まったところである。
位置、ポイント。申し分ない位置である。まずは2着、2着。このままいけば、ファイナルはもちろん、その先だって十分狙える。
確かにあの四暗刻には夢の成就の一端を観ることができた。でも、Mリーグで見たい「夢」は、それだけじゃない。きっとみんな同じはず。

優勝。
エモーショナルの、最高峰。

きっと、やってくれるはず。
それに、白、紅中と来たのなら、次はきっと「」の出番だろう。 「人魚の涙」は、勝利とともに、もたらされるはずなのだから。

……優勝出来たら、みんなで泣きましょうね*10


おまけ。

やっぱりいいチームだと思う。近藤選手が顔をくしゃらせるの、めちゃくちゃにエモくてこれだけで泣きそうになった。

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きっとこの話があったからだろう。
MVPに手をかけたのは魚谷選手自身だけれど、それを確定させたのはチームメイトだ。
本当に、いいチームだと思う。このチームのサポーターで良かった、というにはまだ早い。
優勝まで、取っておきたいと思います。

さあ!応援するぞ~!

*1:目標はキンマWEBのゆうせーさんっぽい記事ね。チャレンジはタダだ。

*2:なので当然Mリーグが始まるまで、魚谷選手は「知らないプロ」の側だった。

*3:ちょうどMリーグ序盤のタイミングで「魚谷三冠!」という話題もあって、「ふぇー、業界じゃめっちゃ若いだろうにすげーなー」と思ったことをよく覚えている。

*4:一番遊んだのはauガラケーアプリ「極」だったと思う。鈴木たろうプロとかいたんじゃなかったか。女流雀士編とかもやってた気はする。初音舞プロしか覚えてない。でも確か二階堂姉妹もいたような。といった感じ。

*5:テンパイ時山に4枚の8pを引けず、途中で待ちを変えていれば、の6pハイテイ。こんなの無理。

*6:奇しくも1年後の同じ時期、「押さないとラスるかも知れない」状況で、魚谷選手はオリを選択している。「去年のような状況だったら押しましたか?」とreplyしたところ、「その状況なら押していた」とお返事をいただいた。かようにチーム状況というものは打牌を左右するのだなあ、と改めて思った次第である。

*7:古いな。

*8:しかも、チーム組も同じ。

*9:2019シーズンは本当にどっしりと打っており、「鳴き」をせずとも良いように進行していたのは、チームメイトにも印象を残したようで、チームPVでは「今俺より副露率低いんだよね」という言及が近藤選手から見られたりもした。

*10:多分自分は泣いちゃうだろうなあ。